君への想いを、言ノ葉に乗せて。
教室のドアの前で立ち止まり、深呼吸をして心を落ち着けようとしてみる。
教室からは賑やかな話し声が聞こえる。
…もうグループが出来てるんだろうか。
中学までの経験上、一度グループが出来ると他のグループとの交流はほとんど無かった。
だからきっと、最初の友達づくり、グループづくりはわりと大切なんだろうと思う。
極度の人見知りで、知らない人に話しかけるなんて今までの私なら絶対にしない。
けど…、今日は頑張るんだ。
せめて一人くらいには話しかけたい。
いや、絶対に話しかけるんだ。
でないと、今までの私とさよならなんて出来るわけが無いから。
…もう一度深呼吸をして、今度こそ教室へ入ろう。
目を閉じて、胸に手をあてて、細く長く息を吐いて。
息を吸ってドアに手をかけようとした、その時。
「ねぇ、早く行ってくれないと私入れないんだけど。」
「…えっ!?あ、ごっごめんなさい!!」
唐突に横から女子の声がして心臓が跳ねた。
反射的に謝罪をして、中へは入らず横にずれて教室への道を開けた。
「別にそこまで焦らなくてもいいんだけど…あなたは入らないの?」
「え、あ…入る、入ります…けど…」
申し訳なさと恥ずかしさで顔も見れず、俯いたままドアに手を向けて、先にどうぞ、と表してみる。
一瞬沈黙が流れて、その女子は戸惑うこと無く教室の中へと入っていった。
今のは失敗だったかな。
どうしてこういう時、相手の顔を見れないのか。
どうしていつもどもってしまうのか。
先にどうぞ、なんて簡単な言葉をどうして伝えることが出来ないのか。
他の子ならどうしていただろう。
ごめんねーなんて軽く謝って笑って済む話かもしれない。
友達になるいい機会だったかもしれない。
名前を教え合うことも出来たかもしれない。
ああ、また後悔ばかり。
変わろうと思ってもなかなか簡単には変わってくれないこの性格が憎い。
はぁ、と思わずため息をつく。
いつまでもここにいたらまた邪魔になってしまう。
さっきの子はドアを開けたままで中に入っていってしまった。
きっとすぐに私が入ってくると思ったんだろう。
でもおかげで、ドアを開けた音でみんなの視線が一瞬こちらに集中するのを避けられる。
閉める時には見られても、後ろを向いているからそんなに気にならずに済むだろう。
なんてまた逃げることばかり考えている自分を心で笑いながら、ようやく教室の中へと一歩を踏み出した。