[完]全力恋奏~音に乗せて~


なにか話があるとき、必ずと言ってもいいほど中庭に来る

「しずく、ごめん」

申し訳なさそうな顔をして、私に謝る

「大丈夫…あそこで来てくれてなかったら……私何してるんだろうね……」

自分から離れて、気持ちが抑えられなくなったからって……言っちゃうなんて

「しずく…俺のこと振るんでしょ?」

「え?」

「分かってるよ、ちゃんと。どうしようか悩んでたことも、甘えてしまいたいことも、柊羽が大好きなことも全部」

そっか、飯倉くんは全部わかってたんだね

「だから、俺の精一杯の悪足掻き」

すごく辛そうなのに苦笑いして、そんな表情の飯倉くんに、胸が締め付けられた

「私、ある人に言われたの」

「ある人?」

紅ちゃんだよ、飯倉くん

「そう。翔亮の気持ち考えあげてって。自分は傷ついても、好きな人には幸せになってもらいたいって」

「……俺?」

紅ちゃんは、飯倉くんが大好きなんだよ

「けどね?私…その人のことどうしても傷つけたくないの」

好きな人のためなら自分が傷ついたっていいなんて、ダメだよ

「誰かは教えてくれないの?」

「その人の想いだから、私が話したらいけない」

「そっか……」

「だから、ごめんね…私やっぱり新村くんが好き。たくさん傷つけて、ごめんなさいっ」

頭を下げると、飯倉くんは言った

「頭……上げてよ……」

頭を上げると、飯倉くんは私を優しく笑ってみていた

「最後の俺のわがままいい?」

私が口を開く前に、飯倉くんの顔が私の目の前に拡がった

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