一途な御曹司は、ウブなお見合い相手を新妻にしたい
わからない痛みを堪えるように、膝の上で拳をギュッと握りしめた。


「だからこそわかるんです。……颯馬があなたに抱いている感情は、恋愛感情ではないと。……あなただってそう思っているんじゃないんですか? 誰だって嫌なはずです。亡くなった愛犬と似ているって理由でプロポーズなんてされても」


「それ、は……」

言葉に詰まる。

彼女の言う通りだ。私だって同じことを思っていた。


南さんが私に抱く感情は恋愛感情ではないって。亡くなった愛犬に似ているってだけでプロポーズしちゃうなんて、おかしな人だって。


でも今は違う。南さんのこと、知ってしまったから。どんな人なのか、理解できてしまったから。だから言い返せないだ。


なにも言えない私に彼女は容赦なく、現実を突きつけてくる。


「颯馬は母親のいない環境で育ち、父親である会長も多忙な方でした。そのせいでひとりで過ごす時間が多く、人との付き合い方が苦手で。……そしてひとつのことに熱中してしまうと、周囲が見えなくなってしまいます。現に今がそうです。仕事に集中しすぎていて、あなたがいらしていることも気付いていないでしょうし、私たちが話している声も聞こえていないはずです。そんな颯馬があなたにプロポーズしたのは、ずっと溺愛していた愛犬と似ていたからです。……あなたに特別な恋愛感情なんてありません」


「……っ!」
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