一途な御曹司は、ウブなお見合い相手を新妻にしたい
「お待たせ、もうできるよ」

「すみません……」

豆から挽くなんて本格的な珈琲を飲むの、久し振りかも。

お父さんはあまり珈琲が好きじゃないから、家には珈琲メーカーなんてないし、専らインスタントだ。

「はい、どうぞ」

「ありがとうございます」

カップに注ぐと南さんはひとつを私に手渡し、隣に腰掛けた。

近い距離と、少しだけ沈むスプリングの音に、心臓がまた忙しなく動き始めてしまった。


どっ、どうしようこの距離間……!

肩と肩が触れそうで触れない、微妙な近さにカップを持つ手の力が強まってしまう。

なのに南さんはやっぱりいつも通りで、チラッと横を見れば優雅に珈琲を啜っていた。


だめだ、やっぱり帰ろう。気持ちに気づいたばかりの状態で彼と同じ空間に、ふたりっきりでずっといたら、心臓がいくつあっても足りなくなりそうだ。


熱々の珈琲を冷ましながら飲んでいく。

「ミャー、今日は本当にありがとうね。こうして家に来てくれて」

「……え?」

隣を見れば、愛しそうに私を見つめている南さんと目が合い、ドキッとしてしまう。
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