一途な御曹司は、ウブなお見合い相手を新妻にしたい
「美弥さん、今は休憩中ですけど、みんなが見てますよ」

「……えっ!?」


普段とは違う口調でボソッと耳元で囁かれた声にハッと我に返ると、隣でお茶を飲んでいた海斗が、ニヤニヤしながら私を見つめていた。

「なっ、なによ、海斗。その目は」

表情を引き締め、ギロリと彼を睨むものの、海斗はニヤニヤしたまま。


「昨日とは別人のように上機嫌な美弥を見たら、誰だってニヤニヤするわ。……その顔だと南さんとうまくいったんだろ? よかったじゃん」

周囲には聞こえないように、私の耳元で囁いた海斗に照れ臭くなる。


けれど南さんの本音が聞けたのも、自分の想いをしっかり伝えることができたのも、すべて海斗が昨日背中を押してくれたおかげだ。


「うん、ありがとう。……それとお父さんにもうまく言っておいてくれて、ありがとうね」

「どういたしまして」


今朝、南さんが出勤前に車で自宅まで送り届けてくれたとき、彼はお父さんに挨拶すると言い出したのを必死に止め、恐る恐る帰った。
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