一途な御曹司は、ウブなお見合い相手を新妻にしたい
「お父さん、そろそろ帰ろう」

「あぁ、そうだな。今日はゆっくり風呂入ってビールでも飲むかな」

陽気な声で話すお父さん。

「あ、給湯室のガスの元栓閉めたかな、ちょっと待ってて」

お風呂で思い出し給湯室に向かうと、やっぱり元栓を閉め忘れていた。


よかった、気づいて。お父さんがお風呂って言ってくれたおかげだな。そんなことを考えてしまっていた時――、事務所から大きな物音が聞こえてきた。

「え……お父さん?」


なにか物でも落としてしまったのだろうか。

応答のないことに違和感を覚えながらも事務所に戻ると、さっきまでいたお父さんの姿が見当たらない。

「お父さん……?」

キョロキョロと室内を見回しながら奥へと向かい、ふと床を見た瞬間、お父さんが倒れていて足が止まってしまった。


「お父さんっ!?」

慌てて駆け寄り声を掛け身体を揺するも反応がない。
< 289 / 334 >

この作品をシェア

pagetop