一途な御曹司は、ウブなお見合い相手を新妻にしたい
再び目を伏せた彼は泣いているように見えてしまい、咄嗟に手が伸び膝の上に置かれていた手にそっと重ねた。

触れた瞬間、彼の身体はピクリと反応し私を見据えてきた。

視線がかち合い、真正面で彼を捉えて息を呑む。やっぱり南さんは涙を滲ませていたから。

「ごめっ……」

慌てて私から視線を逸らすと、ちょうどタクシーは自宅前に辿り着いた。

手で目元を拭い支払いを済ませる南さん。

「すみません、タクシー代」

「気にしないで」

タクシーから降り並んで敷地内にある駐車場へと向かっていく。私と南さんの足音が響く。

彼に言いたいこと、あったのにな。なんて言ったらいいのかわからなくなる。


あっという間に南さんの車の元へ辿り着いてしまい、お互い足を止め、どちらからともなく向かい合った。

「ねぇ、ミャー……。これから僕が話すこと、最後まで聞いてくれるかな?」

「……? は、い」

頷くと彼は小さく深呼吸をし語り出した。
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