一途な御曹司は、ウブなお見合い相手を新妻にしたい
一切彼を見ることなく再度頭を下げて、個室を後にした。

さすがに追い掛けてくる気配はない。


レストランを出て、エレベーターに乗り込む。階数表示が下がっていくのを眺めている間も、頭の中で繰り返されているのはさっきの彼の言葉。


ちょっとときめいてしまった自分が憎い。

ただ単純に、私が亡くなった愛犬、しかもトイプードルに似ていたからお見合いをしただけの人に言われた言葉で。

一階に辿り着き、エントランスを抜けて外に出る。

少し歩いて立ち止まり、振り返り見上げるとそびえ立つ豪華なホテル。


あの中にいて王子様みたいな彼と最上階のレストランで食事をしていたのが、嘘みたい。

気分はまるで、魔法が解けて現実世界に戻ってきたシンデレラだ。

前を向き、歩を進めていく。


生まれた時から御曹司っていう環境で育ったから、あんな頭のネジが一本抜け落ちたような感覚を持っちゃったのかな。


どこの世界に亡くなった愛犬と似ているからって理由でお見合いして、プロポーズまでしちゃう人がいるっていうのよ。
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