理想の人は明日から……
 あっという間に、覆面男達は複数の警官に抑えられた。


「大丈夫ですか?」

 警官の声に我に返り肯いた。


 警官に支えられ、表へ出ると駆けつけた警官が毛布をかけてくれた。


「救急車まで歩けますか? がんばりましたね……」

 警官の声に黙って肯くしかできなかった。



 警官に支えられゆっくりと歩き出した時だった。


「南!」



 部長の大きな声が聞こえた。


 声のする方を見ると、部長が青い顔で立っていた。



 私は、警官の手を振り切ると毛布を落とし、部長の元へ走った。



「怖かったよ~」


 部長が私の腕を引っ張り、しっかりと抱きしめた。


「大丈夫だ…… もう、大丈夫だ……」


 部長の声に、私は部長のジャケットの襟にしがみ付くと、今までの緊張が抜け、うわぁ―んと声を出して泣き出してしまった。



「心配したんだぞ……」

 部長の手はしっかりと私を抱きしめたままだ……


 隣に、篠田さんと岸田さんが居たらしいが、私には部長しか見えなかった。



「救急車へ行きましょう?」

 警官に声を掛けられたが、私は部長から離れる事が出来ない……


「私も一緒に行きます」

 部長の声が聞こえる。


「お願いします」

 警官の声に、部長が私を支えながら、一緒に救急車に乗ってくれた。



 救急車の中で、私は部長にしがみ付いたまま救急車のサイレンの音が遠くなっていった。
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