理想の人は明日から……
 その後、刑事さんとの話が終わり、刑事さんが部屋を出て行くと、思わずため息が漏れた。


「無茶しやがって…… 心配したんだぞ!」


 部長が私の頭を手の平で優しく叩いた。


「すみません……」


 でも、部長は一晩中着いていてくれたんだろうか? 

 上司ってそこまでするのかな?


 って、言うか、私、部長にしがみ付いてしまった。

 しかも、腕の中で…… 

 思い出し、顔が熱くなる……



「なあ、南……」

 部長が何か言い掛けた時、また、ドアがノックされた。


「具合はどうですか?」


 三十代前半の男性が入って来た。
 私服だが、首にネームが掛かっているので病院の関係の人だと分かった。


「大丈夫です……」


「この度は、大変でしたね…… 私はこの病院のカウンセラーの三谷です。なんでも、困ったら遠慮なく相談して下さい。世間話でも恋愛話で構わないので……」


 三谷先生は優しくほほ笑むと、ちらっと部長を見た。


 部長の『ゴホン』と咳払いをした顔は赤くなっていた。



 又、ドアがノックされた。

「楓~」


 半泣き状態で入って来たのは梨花だった。


「梨花―」

 私も梨花に抱きつき、泣き出してしまった。


「無事で良かったぁ」


 そう言いうと、梨花はチラっと部長を見た。

「あっ……」


「梨花、どうしたの?」


「さっき、報道番組で楓が部長さんに抱きついている所が写ってわ……」


「ええっ――」

 私と部長は同時に声を上げた。


「僕も、見ましたよ」

 三谷先生もにこりとして言った。




 又、ドアがノックされ、今度は篠田さんが入ってきた。


「退院の手続きと、お車の用意できました」



「ああ、ありがとう……」

 部長はそう言うと、私を見た。


「帰る準備出来るか?」


「は、はい……」


「廊下で待っているから……」


 男三人は病室を出て行った。



 なんだか、三人の空気に不思議な信頼関係のような物をかんじたが、私には考える力がまだ無かった。
 

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