理想の人は明日から……
 私は次の日から仕事に復帰した。


 家に居てもしょうがないし、早くいつもの生活に戻りたかった。


 いつまでも、恐怖に襲われるのは嫌だ……  


 怖くない、怖くないと自分に何度も言い聞かせた。



 営業チームの皆も心配していてくれて、泣き出す人までいた。

 自分がこんなに、皆に心配されている事に驚きと嬉しさが込み上げて来た。



 二週間程すると、だいぶ落ち着いてきて仕事にも集中出来る。

 ただ、夜あまり深くねむれない…… 

 銃を付きつられる夢で目が覚める…… 


 もう、理想の人の夢は見られないのだろうか?



 それに、部長もだらだらしない…… 

 というか私に怒る気力がまだ無いのだ……



 その日は、朝からパソコンの配線の関係で業者が入っていた。


『ドドッ、ドドド』


 屋根裏をドリルで穴を空ける音だったのだが……


「きゃあ――っ」


 私は悲鳴を上げ、机に伏せてしまった。


 慌てて、あの冷静な篠田さんが業者を怒鳴った。


 皆が駆けつけて来るのが分かった……



「南!」


 外に出ていて居なかったはずの部長の声と共に、私は記憶を失ってしまった。



 目を開けると、応接室のソファーに横になっていた。

 慌てて起き上がると部長の声がした。


「無理するな……」

 部長の手は私の手を握っていた。


「部長……」


「心配するな……」

 部長が優しく背中を撫でてくれる。



「もう、嫌だよ…… こんなの…… 大丈夫だと思ったのに……」


 私は、涙が溢れて止まらなくて…… 


 ぎゅっと抱きしめてくれた部長の胸が、何故か私を安心させて…… 


 益々涙が出てしまった。



 しばらくして落ち着きをもどすと……


「明日、三谷先生の所に行ってくるので…… 仕事、お休みさせて下さい」
 私は言った。


「ああ…… それがいい……」


 部長は優しく頭を撫でてくれた。
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