理想の人は明日から……
 しかし、私はこういうオフィスでダラダラと不真面目で、しかも女癖の悪い男が大嫌いだ!
 絶対にこういう男とは結婚したくない! 
 私の理想の人とは正反対の男なのだ!


 私は、部長に印鑑を貰うと、大股で勢いよく歩き、『バサッ』と激しく書類を自分のデスクの上に置いた。


「まあまあ、落ち着いて…… 部長は南さんを信頼しているから言っているんですよ……」
 いつも、私の怒りをなだめるように声をかけてくれるのは、係長の篠田さんだ。


 篠田さんは五十歳前半の品のあるダンディーなおじさんで、仕事も出来るのに何でチャラ部長の下なのか不思議でしょうがない。


「でも…… オフィスであんな新聞見て、スケベ丸出しですよ!」


「本当に南さんは真面目な方ですね…… だから、仕事も熱心で感心しますよ」


 篠田さんの言葉に、たとえお世辞でも嬉しくなり、さっきの部長への苛立ちも和らいでくる……

 はずだったのだが……


 部長は椅子を跨いで座り、背もたれを両手で抱えその上に顎を乗せ、両足で床を蹴るとするーっと私の所まで来た。

 もう、その姿に呆れて物も言えないとはこの事だ……


「はあ……」
 私はため息が漏れてしまう……


「ええ? 俺、何か悪い事した?」

 不思議そうな顔で覗き込む部長の顔は、多分、女の子達が好きそうな表情なのだろう? 

 でも私は嫌いだ!


「その、悪い事に気が付かない、いい加減な所が悪いんです!」

 私が、声を上げると、周りでデスクに向かって仕事をしていた、営業チームのメンバがクスクスと笑い出した。


 もう! なんでこんなに私が真剣に怒っているのに、他の人は何が面白いんだろう? 

 篠田さんまで笑いを堪えている……


「ほら? 皆に笑われちゃてるよ!」


「部長のせいですよ!」
 私の怒りは頂点に達した。


「はい、はい…… ちょっとこれ見て」


 部長が私のパソコンのメールを開くと、今年の夏に向けてのサンプル商品が写っていた。


「ああ―。可愛いですね…… それにシンプルで大人っぽくて、オフィス街の女性のイメージですかね? これなら、キャリアウーマンみたいに固いイメージは無いけど、仕事に充実している女の子って感じがしますね…… それに、このまま仕事帰りに飲み会にも行けそうだし……」



「なるほど…… で、それをどうやってアピールしたらいいと思う?」


「まあ、そういうイメージを出しやすいのは、イメージにあったドラマで女優さんに来てもらうのが、一番わかりやすいんですけどね…… 難しいですよね……」


「そっかぁ」
 と、立ち上がった部長の顔は、仕事スイッチが入ったようで厳しい顔つきになっていた。

 そのまま部長は窓際まで行き、外を見ながら何か考えているようだった。


 篠田さんが、そっと部長の椅子を押して部長のデスクにきちんと戻していた。

 その光景がなんだか不思議だったが、悪い気持ちにはならず、ふっと笑ってしまった。

 戻ってくる篠田さんと目が合い、篠田さんもほほ笑んでくれた。
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