理想の人は明日から……
 そんな、やり手の顔もある部長なのだが、仕事帰りに友達と行ったパスタのお店に、部長は居た。

 でも、向かいには綺麗な女性の人が座り、楽しそうにチャラ部長は話をしていた。

 やっぱり、女好きは噂だけじゃないようだ……


 私はつい眉間に皺を寄せてしまった。


「ちょっと、楓どうしたの? 機嫌悪そうだけど……」


 声を掛けてきたのは、私の向かいに座っている、学生の頃からの友人で宮野梨花(みやのりか)。

 目鼻立ちのくっきりした美人だが、話してみると冗談の多い気さくな子だ。

 私はそんな彼女が大好きで、時々こうやって食事をするのを楽しみにしている。


「うん…… あれ、うちのチャラ部長よ。また、女といちゃついて最低だわ……」


「えっ、どの人?」


「ほら、窓際の席のグレーのスーツの人よ」


「ええ! めっちゃ、カッコいいじゃん。あれなら女にモテるのも、しょうがないんじゃないの」


「そう? 私はああいうチャラは大嫌い!」


「そうだね…… 楓は真面目だから…… 今でも夢の中の理想の人追い掛けているの?」


「うん、そう! ガキだって笑いたいんでしょ?」


「いいえ、もう、ここまで頑張るなら、応援するしか無いでしょ?」


「絶対、バカにしているよね」


 私は口を尖らせた、その瞬間、部長と目が合った。まずい! 嫌な予感…… 

 でも、部長は私から目を逸らし、他人のふりをした…… 

 部下にばれたのはさすがにヤバいと思ったのだろう……


 私も、あんなチャラ部長の部下だなんて思われたくない! 私も無視してやろう!


 部長達の方が先に食事を済ませ席を立った。

 もう一度部長がチラッとこっちを見たが、私は無視してやった。



 私達も食事を済ませ会計に向かった。

 財布を出したのだが……


「先ほど男性の方が支払って行かれましたけど……」

 店の男性店員が優しくほほ笑んで言った。


「ええっ」

 私と梨花は目を合わせて驚いた。


「やっぱり、カッコいいじゃん」


「そう? きっとこれは口止め料だよ」


「そんな、なんでも悪い方にとらなくても……」


 梨花はそう言うが、私は口止め料としか思えなかった。

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