俺様社長に飼われてます。
フロア内全てを大理石で加工された建物。高山宗介の経営する会社の入り口で私は立ち尽くしている。
スーツを着て首から社員証をぶら下げた男女が私の近くを通るたびに物珍しそうに私を一瞥していく。
けれども人間の興味というのはそれほど長くは続かない。誰もが一瞥だけくれてさっさと自分の仕事をするべく足早に去っていった。
セキュリティ面では何も問題なく社長に足を運ぶことができるものの、秘書を解消された今、何食わぬ顔で忘れ物を届けに行くには勇気がいる。
受付のお姉さんに渡せば社長室まで届けてもらえるだろうか。それとも柳谷さんに頼んだ方が確実だろうか。
「そういえば高山前社長、亡くなったんだってね」
悶々と考えていた中、聞き慣れた名字が聞こえて思わずそちらに視線を向けた。
「聞いた聞いた。もう歳だし、病気もあったんでしょ?」
「今の社長はどうなるの?」
高山、前社長?
ペットボトルや缶ジュースを手にした女性社員2人。少し離れた場所にいる私にも聞こえるくらいの大きな声で談笑している。
「あー……血繋がってないんでしょ?高山前社長が生きてるうちはみんな黙ってたけど、社員の中では今の社長が気に食わないって人も少なからずいるみたいだしねぇ」
「あの」
思わず足を踏み出していた。
声をかけると、女性社員は心底驚いたようで肩を震わせて握っていたペットボトルを床に落とした。