俺様社長に飼われてます。
話はだいぶ遠回りになってしまったが、本題に戻ろう。
高山虎太郎は先日、亡くなった。
俺や最愛のパートナーに遺す言葉もなく、眠るようにこの世を去った。
彼は生前から自分が亡くなる時、身内には看取られたくないと言っていたので代わりに看取った看護婦が「奥さんや息子さんに何か伝えることはありますか」と聞いたところ、「何もない」と答えたそうだ。
あの男のことだから、言いたいことはたくさんあったのだろう。それを言葉にできなかったのか、言葉にする必要がないと思ったのだろうか。
全てを見透かしたようなあの人のようには到底俺はなれない。それこそ彼のようなしわくちゃの老人になろうと、そんな日は来ないだろう。
有能で優秀な義父と比べて俺は劣等生も劣等生。凡人は天才の真似事しかできない。
俺を社長に選んだ男が生存し発言権を失効するまで黙っていた社員は一斉に声を上げ出した。
「高山宗介は社長を降りろ」と。
向いてないと、そう言うのだ。
普段現場に入らず社員から遠ざかっているはずなのに耳に入って来るあたり現場では相当な不満が溜まっていることだろう。
俺は仕事をしながら頭を抱えた。そんな姿を未央には見られたくないと、突き放した。
俺の気持ちを悟ってくれるほど彼女と俺は近しくないし一緒にいる時間も長くない。
彼女は俺の言葉をどう受け取っただろうか。どれほど傷ついたんだろうか。
それでもまた歩み寄ってくれたこの小さな少女を前にして――俺は息を呑んで、涙に濡れた白い頬に指先で触れた。