俺様社長に飼われてます。
「こっち、こっち」
クスクスと小さな笑い声と共に軽く手を引かれる。
初めて履くピンヒールに足首を折りそうになりながら身体を引かれた方に移動させて、顔を上げる。
「……えーと」
ぱっちりとした二重に色素の薄い茶色の瞳。癖毛がちな茶髪は遊ぶように軽やかにセットされている――とびきりの美青年。
それでも軽薄な印象は決して無い。
不思議な雰囲気を纏う男の人だった。
「ど、どなたでしょうか……」
私なりに精一杯言葉を選んでそう言うと、目の前の美青年は困ったように笑って首を傾げた。
「赤羽です。あ、すみません。1回会ったくらいじゃ覚えてないですよね」
「……えっ!?赤羽さん!?」
ヨレヨレのパーカー姿に時代遅れのビン底眼鏡とボサボサの髪の毛。
そんなイメージの強かったので、全く気が付かなかった。
「すみません、ずいぶんと雰囲気が違ったので……」
「ああ、そっか。納得です。さすがに仕事中のようにだらしない格好はできませんからね。ここでは取引先の方もたくさんいますし」
そう言って赤羽さんが顔を上げて周囲を見回すので、私もそれにならって視線を上げると思わず声を上げそうな光景が目に飛び込んできた。