俺様社長に飼われてます。
「……あの、ここがどこかわかりますか?」
話を逸らすことも目的で聞きたいことを口に出すと、おじさんは途端にニヤニヤとして私の頭のてっぺんから足の爪先までを舐めるように見回した。
「迷子なの?俺の家に来る?」
「いいえ」
きっぱりそう断って、この人と話していてもこれ以上は時間の無駄だということがわかっておじさんの横を通り抜けようとして、強い力で手首を掴まれた。
「痛ッ……!離してください!」
「もうちょっと愛想良くしたら?そんなんじゃ誰も買ってくれないよ」
おじさんにひねり上げられるように掴まれた右手首がギリギリと悲鳴を上げている。
恐怖と驚きで声が出せず、泣きそうになりながら掴まれた手を振りほどこうともがくけれどビクともしない。
誰か、誰か通りかかって。異変に気が付いて、助けて欲しい。
人気のない夕方の公園に近寄る人なんてそうそういないだろう。
偶然、犬の散歩でもしない限りは――「キャンッ!」。
間の抜けた獣の鳴き声に、私は一瞬で涙を引っ込めた。