叫べ、叫べ、大きく叫べ!
「今のに関しては俺もあんたも何も悪くない。だから謝らなくていい」
『わかった?』と小さな子どもに言い聞かせるみたいに掴まれた手首を揺さぶってこくりと頷くと「よし」と頷かれた。
「じゃ、気を付けて帰れよ」
彼がそう言ったと同時に自分の手首がだらりと垂れた。
掴まれた箇所が異常に熱くて。
ほぼ無意識的にそこに手を添えてさらに熱を感じて鼓動が速まりだす。
以前より少し伸びた彼のサラサラとした黒髪が爽やかな風によってふわりとなびいて、少し嫌そうに目を細めるその仕草が胸の奥をつつく。
見惚れるということはこういうことなのかな。
なんて思いながら戯れている自分の髪の毛を押さえて「じゃあここで失礼します」とてろりと頭を下げた。
踵を返して歩きだす。
ドアノブに手をかけながら最後にもう一度、フェンスの向こうに広がる景色を目にした。
久しぶりにみた景色はほんの少しだけ違って見えて。
不思議だけど、以前よりそこまで酷く『嫌い』だなんて思わなくて。
殺風景なのは変わりないけれど、赤みがかった空色とこの街並みが綺麗だな、なんて思うのは心外で。
私は少しずつ変わっているのかもしれないと思うことにした。
フッと笑みを浮かべ『また夏休み明けにね』と胸の内に呟いてから手元を捻ると後ろから大きな声が飛んできた。