叫べ、叫べ、大きく叫べ!
思わず振り向くと、立ち上がっていて。
「千木良空牙、2-2!あんたの名前はーっ」
「っ、……か、夏澄!園田夏澄!2-4っ」
「えなに、聞こえない!」
ウソ。これ以上大声なんて出せないよっ。
そんな大きな声なんて今まで出したことないし、どう出せっていうの。
困まりながらも遠くにいる彼は耳に手を当てて私を待っていて。
あーもうっ。
口元に手を近づけて私は腹の底から叫ぶように声を放った。
すると、彼は大きく丸を作ってから「夏澄、またなっ」と手を軽く振る。
こくりと頷き、同じように手を振ってから屋上を出た私は固く閉まった扉におでこをくっつけた。
どっきん、どっきん、ドックン……。
息がくるしい。酸素がほしい。
何度も瞬きを繰り返す。
こんなのはじめてで。
くっつけたおでこには扉のヒンヤリさが伝わって気持ちいい。
けれど、身体の熱は冷めなくて。
心臓は速まるばかりで。
あんなに声を出したのははじめてで。
私の声が届いたのに安心して。
もう落ち着いてもいい頃なのに、彼の声が、頭の中で鳴り響いていて……。
なにこれ。名前呼ばれただけなのに。なんでこんなに落ち着いてくれないの私の心臓。
よろよろと階段を下りながら胸に手を当てて、鼓動を感じる。
ふぅと息を吐くけれど直ぐに酸素を欲しがる私は陸にあがった魚にでもなったみたいで。
当然帰り道はクタクタで、帰宅直後真っ先にベッドに寝転んだ。
たぶん、今日のことは一生忘れないかもしれない。
この心臓の音と速さと、熱さを。