叫べ、叫べ、大きく叫べ!

「夏澄ちゃんの“それ”ちょーだい」

「へ?」


カルボナーラを食べていると前から声がして思わず目線を上げる。


頬杖をついている都波が私の食べているそれを指さして、くぱっと口を開けて見せた。


え、いや、何やってんの。
周り見てみなよ。文香も皐月も真田くんも糸口くんだって引いてる顔してるよ。


絡みとっている最中のカルボと口を開けている彼を交互に見ては『ありえない』と心の中で思う。


ましてやこんなことするのなんて、家族かそれ以上……。


突然ぼっと顔に火がついたように熱くなって。
水を少し口に含んだ。



「ちょっと雅、夏澄困ってんじゃん。やめてあげなよ」

「夏澄ちゃんちょーだいっ」


文香を無視した都波はなんでだろう。少し不機嫌だ。


私がこれをあげないから?

それだけの理由で不機嫌になるなんてどんだけ気が短いんだ。子どもか。


そんなことを考えながら新たなフォークを取ろうと中央にあるケースに手を伸ばすとそれを制されて、思わず声に出す。



「え、食べたいんじゃないの」

「そっちじゃなくて、こっちがいい」

「嫌だよ。だ、だって……」


それじゃ、“間接”じゃん。無理がある。私には。都波はいいかもしれないけれど。私は……っ。



「雅」


都波が私の手に触れた時、静かに呼んだ声がその手を止めた。

< 136 / 273 >

この作品のキーワード

この作品をシェア

pagetop