叫べ、叫べ、大きく叫べ!
都波の気持ちは充分すぎるくらいに伝わってる。毎日のように「好き」と言われている日々だった。メッセージでもまるで恋人のようなやりとりもしていた。
だけど私は都波をそういう対象では見ていないことは確かで。
彼にはたくさんの感謝しかない。彼の見方も少しは変わった。チャラ男は嫌いだ。だから都波は最初から受け付けられなかった。外見もそうだし、なにより人懐っこい眩しいくらいの笑顔が痛かった。
私の心の奥を溶かすような笑顔が怖かった。
だけど一緒にいるようになってから、たくさんの彼を目の当たりにして今は普通に好きだと断言出来る。ちょっと怖い部分もあったり、煩いところも、呆れちゃう所も、見惚れることもあるけれど、それは“友達”としての感情だ。
頬に当てられている彼の手をそっと引き離す。
「ごめん。都波とはこれからも“友達”でいたい」
「香澄ちゃん……」
「あのね……私にとって、1番最初の友達は都波なんだよ。こんな私に声をかけてくれたのも都波が初めてで、掃除がきっかけだったけれどね。多分、あの日から私は変われたと思うんだ。少しずつだけど。 ……正直、都波にはドキドキさせられて困ったりもした。けど、この感情は恋とは違くて、……今まで楽しめていなかった私にたくさんの感情を教えてくれたのは紛れもなく都波なんだ。都波は私の恩人でもあるんだよ。だからね、」
「香澄ちゃん、抱きしめてもいい……?」
「は、何言っ――」
手を引かれあっという間に胸の中へ連れ込まれてしまった。
あまりにもキツく締められるから私たちの間に隙間が無くて叩く隙もない。くるしいと呻き声のように告げるけれどそれは無効果にしかならなくて。
やっぱりこんなこと言わなきゃ良かったなんて思った。
「もう香澄ちゃんはどんだけ俺を掻き乱してくれんの? これじゃ諦めつかなくなるじゃん。せっかくっ、なんでそんな可愛いこと言ってくれんの? あーもー……はー……、誰にも渡したくないってまじで……っ」
「……泣いてる?」
「っ、泣いてるよ! 全部香澄ちゃんのせいだかんねっ」
ぐすんと鼻奥を鳴らしてから私を解放すると潤んだ瞳で見下ろされ、ふわりと切なく微笑む。
反して私はそんな彼を子犬みたいだなと、ちょっと可愛いなと呑気に思いながら笑みを返した。
「ごめん、寒いのに引き留めちゃって」
「ううん大丈夫。泣いた都波見ることができたし」
「うわー俺の涙は見せもんじゃないし! ……じゃ、気をつけて帰るんだよ」
こちらを向いたまま手をひらひらさせて遠ざかる彼が「本当に家まで送らなくていいの?」と聞き返してくる。大丈夫と大きく頷くと都波はちぇと悔しそうに笑って背を向けて歩き出した。
ふと気になったのはさっきから救急車っぽいサイレンの音がよく聞こえていることで。都波ともここら辺で誰か倒れたのかなと話していた。
千木良くんのことで脳が敏感になっているだけだと思うけど――。
足を家へと進めるとその音はどんどん鮮明に大きく鳴り響いていて、家の前にたどり着いた私はその光景に目を疑った。