叫べ、叫べ、大きく叫べ!
怖かったね、頑張ったねと頭を撫でる。栞那は声をあげて泣いた。
彼女もやっぱり苦しんでいたんだと涙の量と声量から伝わってくる。時折、嗚咽混じりにこぼした言葉は今まで溜め込んでいたものだろう。やっと吐き出せているみたいで止まらない様子に頷きながら背中を擦りながら私は微笑んだ。
――落ち着いてきた頃、お父さんから電話が掛かってきた。
《母さんは無事意識を取り戻した》と安堵の息をつく父の声は本当に安心しているようで、聞いていてなんだか目頭が熱くなった。
涙脆くなってしまったとかではなくて、私も安心はしているんだけど、父が母を思って安心している姿を思い出すと胸に何かが引っかかって……なんで離婚するのか不思議に思ってしまった。
本当は父はお母さんのことを大事に思っているはず。
栞那からさっきの事を聞いたけど父は頑張って息を吹き返そうと人工呼吸をしていたみたい。当然の処置行為だけれど、それはまるで眠りから覚まさせるみたいだったと落ち着きを取り戻した栞那が言っていた。
父は学生時代、保健委員だったと慌てた様子で人工呼吸に取り掛かっていたとも聞いた。その姿は自信そのものだったらしい。
見てみたかった。母のために頑張っている父の姿を。父の完璧な処置があったから今お母さんは生きているのだと感動を覚える。
お母さんはこの父の頑張りを聞いてどう思うのだろうか。やっぱり嫌悪感を抱いてしまうのだろうか。あんだけ父を毛嫌いしている母を見てきた私からするとそうなる可能性はゼロに近いかもしれない。
けれど、もし1%でも見込みがあるのなら――もう一度“家族”に戻りたい。見つめ直して、新しい園田家に生まれ変わりたい。
《香澄、栞那は大丈夫か?》
「うん。事情も聞いたよ。お父さんはこのままお母さんの傍にいるんだよね?」
《そっか。良かった。あ、うん。そのつもりでいる。ごめんな迷惑かけて……お父さん達がしっかりしてないから、……いや、俺がいけないんだ。ごめんな》
「お父さんはお母さんのこと好き? なんで離婚したいの?」
声は冷静を保っていながら発した言葉に鼓動は敏感に反応した。ドキドキと胸が高鳴る。緊張もした。スピーカーにしているから栞那も私と同じように胸を押さえていた。
《母さんのことよく分からないんだ。好きだから愛しているから結婚したはずなのにな。……朱美の態度が変わったのは俺のせいなんだよな。俺が全部娘たちの世話を任せっきりにしたから。ちゃんと朱美を支えられてなかったから、ごめんな朱美、こんな奴と出会わなかったら朱美はこんな辛い思いしなくて済んだのになぁ……》
父の声は悲しみにくれていた。だけどその中に愛しさもある気がして、目の前に母が居るのだろうと私と栞那で目を合わせて、そっと電話を切った。