叫べ、叫べ、大きく叫べ!
トントン
ノック音が消えたあとドアの向こうから「お姉ちゃん起きてる?」と控えめな声がしてあっという間に涙が引っ込んだ。
泣き腫らしてしまった目を見て欲しくなくてベッドから離れ急いで明かりを消し、急いでまた潜るとまだ返事もしていないのにガチャリとドアが開いた。
なぜか寝たフリをしてしまった。そんな私に気付く様子もない彼女は「お邪魔しまーす」と控えめに、かつ嬉しそうに言うとお腹に重みがかかった。
ぎゅぅと優しく巻かれ、背中に顔を埋めてくる。その仕草が堪らず可愛すぎて声が漏れそうになるのを必死に押し殺した。
いくら寝ているからってこんなことするなんて可愛すぎるにも程がある。
栞那は思った以上に甘えんぼうなのだ。……こんな可愛いことを彼氏にもしているのだろうか。想像しただけで恥ずかしくなる。きっと彼氏もイチコロに参っているはず。頑張れ彼氏くん。
ふいにお腹の奥が震えてしまった。しまったと思ったのも束の間。栞那が確かめるように体を起こして顔を覗き込んだ。
「お姉ちゃん起きてるの?」
寝てます。起きてるけど寝てる。すやすやと寝てます。
瞼も、まつ毛のひとつも動かさないように一生懸命寝たフリをする私をどうか許してね。そうでもしないと泣いたことバレそうだから。とはいっても、ここは真っ暗だから気付くこともないとは思うんだけど、念のためだから。
「お姉ちゃん、泣いたの?」
――え。
危うく目を開けそうになった。大丈夫かな瞼動かなかった? てかよく見えたね。視力いくつよ。
ドキドキと胸を鳴らし離れていく音を聞いて少し落ち着きを取り戻す。再び栞那が背中に擦り寄ってきた。
「ごめんねお姉ちゃん。1番辛かったのはお姉ちゃんの方なのにね。逆らうのが怖くて、破ったのだって私がやったって言えばお姉ちゃんのせいになんてならなかったのに。……だけど思い切って言ったら余計なことまで言っちゃって、っ……お姉ちゃんと離れたくなんか、ないし、家族バラバラ、なんて嫌だし、っ、もう怒鳴られるのもケンカ見る、のも、つらいから……私、お母さんにっ、『大嫌い』って……ぅ」
苦しげに言う彼女の手に自分の手を重ねた優しく撫でた。1度ぴくりと引っ込めようとした手はその場に留まりシャツを掴まれる。背中には湿り気を感じ取りひんやりと肌にくっついて一瞬目を見張るが私はそっとほくそ笑んだ。
まさかその一言で母が倒れるなんて思わなかっただろうし、心肺蘇生を目の当たりにして真っ先に考えてしまうのはやはり“死”なのだろう。私もそうだったからよく分かる。
人の死は常に隣り合わせなのだ。いつその時が来てもおかしくないくらいには。だから大切な人ほど目の前で倒れる怖さは計り知れない。