叫べ、叫べ、大きく叫べ!
振替休日が明けた火曜日。
今朝は初めてゆっくり家を出た。
8時15分なんていつもならば教室で伏せて寝ている時間帯。通学路も見る景色が全然違くて、知らない場所へ来たみたいだと思うほどで。
人が多いせいなのか誰も居ない道では嗅いだことのない香りに不思議と笑みがこぼれた。
教室にはほとんどクラスメイトが集まっていて、中に入ると目が合った人に「おはよう」なんて声を掛けられて、これまた初めての感覚を味わった。
いつも早く来て伏せてばかりだったからね、とこの新鮮な感覚に胸を踊らせる。
都波は先に来ていたみたいで私を見てはちょっぴり拗ね気味に「遅かったね」と頬杖をつきながら言われた。
椅子を引きながら「まあね」と返し着席すると、今度は来たばかりの文香が真っ先に向かってきてガバッと抱きしめられて。
後から来た皐月はやれやれと呆れながら文香を引き剥がしてくれた――かと思えば皐月も抱きついてくる始末で。
2人にはたくさん心配かけてしまったのだと申し訳なさが込み上がった。
振替休日中、大丈夫かと心配をするメッセージをもらって大丈夫と送り返したけれど、文面だけじゃ伝わらないことの方が多いのかもしれない。
こうやって対面してやっとホッとできるのだと2人を見て思った。
HRが始まるチャイムが聞こえ、もうこんな時間なのかと時計を見上げる。
8時45分。
中嶋先生が今日の予定を伝える中、今日はどう過ごそうなんて窓の外を眺めながら思う。
みんながいるけれど、出来れば1人になりたい。
こんな事言ったらまた心配かけちゃうかな……。
「香澄ー、」
「香澄ちゃん、1限理科室だって」
「あ、先に言われた…………チッ」
「え今舌打ちした?したよね?」
「してないしてない。ほれほれ、早く行くよーっ」
文香は私の背中を押して早々と教室を出て「逃げろ〜」なんて先に走り出す。
先に行っちゃったとその背中に笑みを含ませながら揺らりと歩み寄ってくる皐月を待った。