叫べ、叫べ、大きく叫べ!
放課後になるまで私の傍には友達がいた。朝のHRでは『1人になりたい』なんて切実に求めていたのに、やっぱり2人の明るさに癒されて充分に気が紛れていた。
多分ひとりでいたらこんなに気分が晴れていなかったかもしれない。多少考えて落ち込んで泣きたくなる気持ちも出てきたけれど、2人が私に笑顔を与えてくれるから。
でもここからは一人の時間になる。
彼が学校に来ていないことは朝、理科室へ向かう途中に確認済みだ。その時に私は決めていた。彼の様態を知っているのは職員室の中にいるはず。だから放課後彼がいる病院を聞いて、向かうと。
――だけど、教えてはくれなかった。
途方に暮れながらよたよたと帰路を歩く。
頑なに『教えられない』の一点張りで、どうしてもと懇願したけれど中々融通がきかなかった。
千木良くんの担任――瓜田先生は優しそうに見えて秘密主義で頑固だった。
思っていたイメージとかけ離れていたとはいえ、友達が運ばれた病院名くらい教えてくれたっていいじゃんと胸の内で訴えたのは言うまでもない。
やるせない気持ちを逃がすかのように息を一つ吐き出す。
と同時に肩を叩かれて誰だと確認する隙もなく相手が顔をひょっこり視界に入り込んできた。
「わ、都波!?」
「香澄ちゃん俺とちょっとデートしない?」
いい場所に連れてってあげると面白そうに笑う彼に思わず間抜けな声をあげてしまう。
いや、デートって……なぜ急に? てか私の事追ってきてたな絶対……。自分でいうのもなんだけど。
彼を怪しんで見つめると無言を肯定と捉えられてしまったのか楽しげに口角が上がって私の手を取って歩き出す。
「え、ちょっと、まだいいなんて言ってないんだけどっ」
「黙ってた香澄ちゃんが悪い。ま、今から香澄ちゃんの行きたい場所に連れてってあげるから楽しみに手繋がれてな〜」
「はあ?」
都波に手を繋がれたのはこれで2度目だとその大きな手を見て懐かしむ。
一体どこへ連れていかれるのだろう。
私が行きたい場所って言ったらひとつしかないけれど。
都波が病院へなんて連れて行ってくれる確証なんて無いし、彼と病院の接点なんて聞いたことも無い。
ただ単に私とデートしたいだけなのかもしれない……ってこれは自惚れているのか私は。
都波からの好意は未だに冷めていないらしい。それは視線からも、言葉の柔らかさからも伝わってくるほどで。
なんで私なんかを好きになるのか分からない。でもその好意はおかしいくらいに嫌じゃなかったりする。
「香澄ちゃん何笑ってんの? あ、俺とデートできて嬉しいって?」
「そうじゃないけど、嫌いじゃないなって」
「――! はぁー……香澄ちゃんそーゆーとこだよホント、もーはぁ……」
前は散々嫌ってたくせにと口先で言った彼の声は私には届かなかった。
その代わり繋がれた手に力が入って歩く速度が上がった。