叫べ、叫べ、大きく叫べ!
電車に揺れること15分。知らない駅名と知らない街並みに辺りを見渡した。
再び手を繋がれ、駅に隣接したショッピングモールを抜け、細い道路を進み、幅の広い緩やかな坂道を上る。道端に生えている木々は禿げていて、もうすぐ12月だもんなあと冬を感じとった。
「ねえそろそろ教えてくれてもいいんじゃない?」
「じゃーヒント。茶色い建物」
「なんでクイズなの。ちゃんと教えてよ。全然デートでもなさそうだし」
「え、デートだと思ってくれてたの!? なにそれっ嬉しすぎるんだけど。別に今からデートしてもい、」
「しません。さっさと教えて」
「えー少しはノッてくれてもいいじゃん。もう少しだよ」
釣れないなとばかりに口を尖らす彼に苦笑いを向ける。
それにしても茶色い建物ってここら辺に存在しているのだろうか。どう見ても未だに建物らしきモノが見当たらないんだけど。
まだ周りは木しか見えない。
ようやく上り坂の終着点が見えてきて、やっと登りきると安心した。こんな緩やかそうな坂道なのに私の呼吸は乱れまくっていて、明らかに運動不足だなと痛感させられた。
一方隣を歩く人物は余裕な顔持ちでいて、こちらに向ける笑顔は若干憎たらしくも感じさせた。
「着いたよ」
一息ついた彼がそう告げる。
都波の視線の先へと辿っていくとそこにはちゃんと茶色い建物があった。
ここは病院だと建物の上部に名前――環音総合病院だと確認した。この名前は4日前に父の口からも聞いた名だと思い出した。
「千木良空牙……だっけ? ここに居るよ」
「そ、なの……なんで……」
「俺の伯父がここの医院長しててさ、もしかして……と思って伯父さんに聞いたらビンゴして――ってわけ。ほら会いたいんでしょ? 中入ろ」
「う、うん。……ありがと」
グイッと手を引かれれば動かせそうになかった足が一歩一歩進みでた。
まさかと思っていた以上の事に驚きを隠せない。何せ千木良くんのかかりつけの病院で都波の伯父さんが彼の主治医だったなんて。
病院内は鼻につくようなツンとした消毒液の匂いが広がっていた。正直苦手な香りだ。あまり落ち着けそうにもない。
都波は受付の女性と顔見知りなのか親しげに話していた。それから「こっちだよ」と再び手を引かれる。
階段を上り、2階へ――。