叫べ、叫べ、大きく叫べ!
ナースステーションを通り抜け、6つ目のドアの前で止まった。ドアの隣には病室番号と名前、[206 千木良空牙]と表記されている。
急に心臓が速まりだした。思わずゴクリと生唾を飲む。胸に手を当てたのは無意識に近くて、大きく深呼吸をした。
この扉の向こうに彼がいる。やっと会える。それなのにとても怖い。
こうして面会できるっていうことは、千木良くんはちゃんと生きているからであって……絶望することなんかないはずなのに……それなのにここまで聞こえてくる心電図の音が怖さを引き立てているせいで中々ドアの取っ手に手がかけられない。
ここまで来たのに。会いたかった人がその向こうにすぐいるのに……。
怖さでショートしてしまった私に繋がれた手のひらに力が加わった。横を見上げると励ましているのかそれとも急かしているのか、きっと前者だと思う表情をした都波はキュッと結ばれた口をして力強く頷く。
『大丈夫』
そう言われている気がして、ほんの少し心に余裕が出来た。ぎこちなく頷き返して、一歩前に出た私はドアの取っ手を掴んだ。
その時。
――香澄?
開けようとした手がピタリと止まった。確かに聞こえた声の方へ顔を向けるけれど誰も居ない。けれどその声はよく知れた落ち着きのある私の大好きな声。
「……千木良くん?」
そう呼んでも返答はなく、その代わりに都波の声が聞こえた。
「香澄ちゃん? 千木良ならこの中にいるよ……?」
「ああ、うん、そ、だよね。あははごめん今変だったよね」
「いや変てわけじゃないけど……なんか妬けるっていうか」
「あは、なにそれ都波の方がへ、――!」
「香澄ちゃん?」
また声がした。また私を呼んだ。紛れもなく“彼”の声。
どこにいるの!? 何してるの!?――そう思った時には走り出していた。
都波が私を呼ぶ。すれ違った看護師さんに注意される声はもう私には届いてなかった。無我夢中に彼の姿を探して……見つけた。
半透明になった彼の姿を。