叫べ、叫べ、大きく叫べ!
「もう帰れよ」
「……え?」
「聞こえただろ。帰れって言ったの。俺は……もう戻ることも出来ない。もう香澄と会うことも無い。もうサヨナラだ。分かったならもう放っといてくんない?」
もう一度冷ややかな視線を浴びせられた。
泣きそうになるのを喉の奥で堪える。
嘘つき。
諦め早すぎ。
サヨナラって言うな。
分からない。
放っておけるわけないじゃない。
「そう言ってる割にはなんで泣いてるの?」
「は?」
何を言っているんだとしかめっ面を向けた彼が目元に手を当てるけれどその温度は分からないようで更に顔をしかめられた。
私にはちゃんと見えているのにと落ちる涙に手を当てるけれど当然触れることすら出来なくて悲しくなる。
どうすれば分かってもらえるのだろうと悩みながら試しに鏡を取り出して彼に見せてみた。
すると、千木良くんの表情が強ばった。
「私、間違ってなかったでしょ?」
「……」
「泣いてるじゃん。ほら。見えてるんでしょう? ……サヨナラなんて言わないでよ……っ」
まだ死んでないじゃん。さっきちゃんと心臓が動いている音聞いてきたもん。なんで諦めるの。なんで放っといてなんて言うの。
「千木良くんのバカ。大バカ。っ、簡単に諦めるようなこと言わないで。こうして喋れてるのだって実在してるのと同じなんだから。私はちゃんと千木良くんが見えてるんだから。っ、サヨナラなんて酷いよ、ちゃんと戻ってきてよ、ちゃんと触れたいんだよ、千木良くんが、いないのさみしかった、んだよ」
きっとはたから見たら1人顔を手で覆って泣いてるだけに違いないだろうけど、今私は彼の腕の中にいる。
何も感じないけれど、ほのかに優しい温もりみたいなのを感じて涙が止まらない。でも確かに私は千木良くんに抱き締められている。
声を押し殺して泣く私に千木良くんはゆっくりと話し出した。