叫べ、叫べ、大きく叫べ!
話し終えても止まることを知らない涙に困ってしまう。
あの日、空港で倒れた千木良くんは本当に何も覚えていなかったみたいで、気付いたら病院にいたんだとか。それもこの半透明の姿で。本体は病室で眠っているみたいだけれど、その様子をこの状態では見ることも、近付く事も出来ないらしい。病室に近付くだけで跳ね返されてしまうみたい。
けど、唯一覚えているのは私が千木良くんの名前(しかも下の名前)を呼んだ声だとキッパリ断言していた。それも嬉しそうに。
おそらく、空港で心肺蘇生している時のことだろうと脳裏に蘇らせた。今思うと恥ずかしくてたまらない。
「香澄、座ったら? 立ってるのそろそろキツイんじゃないの」
「いい。まだ全然立てる。千木良くんが座れば?」
「……ふーん、じゃお言葉に甘えて」
そう言うと彼は近くの長椅子の端にちょこんと腰を下ろした。透かさず私もその隣に腰を下ろす。案の定、ツッコまれた。「結局座るんじゃん」と笑って。
久しぶりの笑顔に胸の奥が高鳴る。
はあ、もう全て吐き出したい。胸の中に溜まりに溜まったたくさんの色をそこら中にぶちまけてしまいたい。ここが私だけの空間だったら躊躇うことなく吐き出せるのに。
「香澄はさ、叫んだことある?」
「無いけど」
「だろーな。でも俺の名前は叫んだ。その時さものすごく心臓に響いたんだよ。多分それがあったからまだこうしていられているんだと思うんだよね俺」
「?」
「つまりはさ、恥ずかしさも何もかも一度捨ててさ、心から叫んじゃえば?」
「え? ……あっ」
読まれたんだ。私が思ったこと。私が彼の笑顔にどぎまぎしている時に。顔を覗かれた時に逸らしておけば……って意味無いか……。
「香澄は溜め込みすぎなんだよ。声も小さいし。前よりは出てるけどさ。……ま、癖って早々簡単に抜けるもんじゃないと思うけど、やっぱ自分の主張って大切だと思う。言葉もそうだけど、感情だって溜め込む必要ないんじゃないの? さっきみたいに思い切り泣けばいいし、笑いたかったら思い切り笑えばいい」
そう思わない?とこてんと首を傾げる彼に私は何も言う言葉が出なくて、唇を噛み締めて頷いた。
溜め込みすぎなのは分かってる。
だけど、こんな私じゃなかったらもうとっくのとうにやってる……はずなんだ。私はビビりだから。言い訳だってするし、心のどこかでは誰かのせいにするし、怒られるのも否定されるのも嫌だから、自分は誰かの言いなりになる事で完結させて、自己主張なんて持たずに今まで生きてきた。
だってその方が楽だったから。