叫べ、叫べ、大きく叫べ!
でも、その分辛さは溜まるばかりだった。
笑いたくない時も笑って、やりたくない時でも笑って承諾して、『嫌だ』『駄目』『無理』そんな否定的な言葉がポンポン出てくる人が羨ましくなったり、恨めくなる時も多々あった。
おまけに、家じゃくつろぎたくてもその雰囲気がさせてくれない始末で、母の顔を伺って、暗い部屋で過ごし、つまらない日々を送り続ける私には楽しくなるような話題なんか持っているはずもなく、ただ妹のアレコレな話を聞くだけで一日が終わる……という日々。
心なんて死んだも同然。生きている意味もわからなかった。日々疑問ばかり。才能も学力もずば抜けてないし。母からは必要とされていない。両親は不仲だし。私の存在はクッションみたいなものなんだって。ずっと思ってきた。
だけど、大切な友達ができてからは私の見てきた嫌な景色が一変した。こんなにも鮮やかに煌めいた色をもっていたのかという程に。
言いたいことを主張しても反論せずに聞き入れて、共感して、時には怒ったり、悲しんだり、大爆笑したり……私の求めていた日々を送れている今なら、彼の言ったように心から叫べるかもしれない。
「でもなんで叫ぶの? こうして色んな事吐き出すだけじゃ駄目なの?」
それにやっぱ恥ずかしいよ。そもそも叫ぶ場所なんてあるの?
「別に駄目じゃないけど……スッキリするもんだよ。罵声を浴びさせるわけじゃないし。全て自己完結。ま、やってみれば分かるんじゃない?」
「やってみればって……その言い方だと千木良くんは叫んだんだ? 誰もいない所で? 恥ずかしくなかったの?」
「うん、叫んだ。屋上で。あ、学校のね。誰も居なかったし、恥ずかしくもなかった。この状態だったから」
「へぇ……はい? いやいやそれはずるいやつ! そんなんだったら私もやってるし、そりゃ恥ずかしげもなくどこでも出来るよ」
こんなの叫んだ内に入るのだろうか。
私の中ではノーカウントにしたいくらい狡い手口だ。誰にも声が届いてないじゃないか。
私には誰かに届くようにと言われてる気がしたんだけど?
「千木良くんやっぱ狡いよ、それ。私認めない。だって千木良くんの声誰にも響いてないんだよ? 自己完結は別にいいとして、なんかそれって虚しくない?」
「虚しい?どこが? 誰かに伝えるわけじゃないんだからそれでいいだろ。香澄だって『恥ずかしい』って言ってるじゃん。それって誰にも聞いて欲しくないからだろ?」
「それは、そうだけど……」
「じゃあ別にいいじゃん。だって自己完結なんだから」
もうこの話は止めようみたいな雰囲気を醸し出すけれどその話題を振ったのは千木良くん、あなただということ忘れないでよね。
そんな思いを込めてため息をついた。