叫べ、叫べ、大きく叫べ!
自己完結、ね……。
どうしても納得いかない。なんでだろう。別に彼の言っている全てが理解出来ないというわけじゃない。
叫ぶことにメリットはあるかもしれないけれど、彼のいう“叫ぶ”はそれこそ完璧なる自己完結に過ぎないかもしれない。自分だけの空間で叫ぶだけ。
確かにそれは私にとって羨ましすぎる空間なのだけれど……。
『恥ずかしさも何もかも一度捨ててさ、心から叫んじゃえば?』
そうアドバイスくれた彼は何もかも一度捨てて心から叫んだのだろうか。
「……ひとつ聞くけど、千木良くんはそれで心からスッキリ出来たの?」
「……出来た」
「そっか」
ならいいんだ。もうこれ以上は聞かない。
見つめる先の彼に幾度か頷く。彼はほっとしたように、そしてどこか悲しげに目を細める。
ふと彼の手が伸びてきて頬を滑り、顎の下に止まった。触れた感覚は一切無い。
不思議に首を傾げる。見つめられる視線に心をくすぐられているみたいで、目が泳ぐ。もどかしすぎて全身に蕁麻疹でもできてしまいそうだ。
「香澄はさ――」
「香澄ちゃん!」
声の方へ顔を向けると都波は腰に手を当てて近付いてきた。
走ってきたのだろうか。少し疲れ気味な彼は背もたれに手をついて息を整えている。
それにしても追いかけて来たにしては随分と時間かかったね?
「はー、つかれたぁ。走っちゃいけないのに走っちゃった。追いかけようとしたらさ、ちょうど中から千木良のお母さんが出てきて、せっかくだからって中に入れてもらっちゃったらこんな時間だよ……香澄ちゃんは?ここで何してたの?」
よいしょ、と私の右に腰を下ろして前かがみに顔を覗かれる。
ハッと我に返った時には私の顎にあった手も、彼の姿も跡形もなく消えていた。
まるで最初から私一人だけしか座っていなかったかのように。
「千木良くんと話してた」
「えっ」
「さっきまでココで一緒に話してたの。今は消えちゃったけど」
「へ、へぇ……」
「あ、ごめん急に……変なこと言ったね」
――気味悪かったよね。
そう続けようとした所で喉元でつっかえた。
そうか。だからあの日千木良くんはこう言ったんだ。自分のことを『気持ち悪い』って。
もしかしたら彼は見えないモノが見えたり、人の心が読めちゃったり、自分が幽体離脱してしまう体質だということで、人から嫌悪感を抱かれていたのかもしれない。
なりたくて成ったわけじゃない体質によって自分自身にも負担をかけて……――そういえば何かの記事に書いてあった気がする――『周囲の人との関係の困難を抱えた人や、心的外傷によるストレスなどに影響する』と。