叫べ、叫べ、大きく叫べ!
「ね、ねえ。千木良くんの病室入ったんだよね? どうだった」
「ああ、静かに寝てるみたいだったよ。揺さぶったり声掛けたら今すぐにでも起きてきそうな顔してた」
「千木良くんのお母さんは、彼のこと何か言ってた?」
「このまま目が覚めなかったらどうしようとか、友達がいて安心したとか、泣きそうな……ってどうしたの香澄ちゃん。なんかやけに前のめり」
それを聞いて安心した自分がいた。だけどまだ確信はできない。だから千木良くんのお母さん、せめて家族の人と話をしたい。
たぶん千木良くんは誤解をしているのかもしれない。それだけは自信持って言える気がする。
今日はもう帰ろう。その前にお母さんの顔でも見ていこうかな。
「え、あ、ちょっと香澄ちゃん!? どこ行くのっ待ってよ!」
慌てた声は隣に来てブツクサと私に文句を言うけれどその顔は優しかった。
そして母が倒れてここで入院していることを打ち明けたら怒られた。頭を小突かれた後、“頑張ったね”なんて頭を撫でられて。私は何も頑張っていないけれど、ほんの少し胸が熱くなったのは秘密だ。
帰宅すると、ダイニングテーブルにお皿を並べる栞那とキッチンに立つ父がいた。
「おかえりお姉ちゃん!」
「た、ただいま」
「私もびっくりしてるんだよ。でもなんかイイよねこーゆーの」
さ、今日はお父さんの手作りご飯だよ〜とテンション高めの栞那に背中を押され洗面所へ。直ぐにキッチンの方へ戻って行った彼女にフと笑ってしまう。
鏡に映る私も思いのほかわくわくしてそうな表情をしているみたいだ。
いつぶりだろう。父の手料理を食べるのは。楽しみだ。
「「「いただきます」」」
夕飯は懐かしい色と香りでいっぱいだった。
父の得意料理はパスタで。中でもカルボナーラはずば抜けて美味しい。お店でも出せそうなくらいだ。
学生時代カフェで働いていたその腕前はいまだに健在で良かったと楽しげに話す父の顔にほっこりする。
でも久しぶりの父との食事だからなのか、私たちはぎこちなく返してしまうのが申し訳なくて、せめて笑うことさえできればいいのだけれど……。
食事音しかしないこの空間にとてつもなく寂しさを感じてしまっていると父が麦茶を一気飲みしてから口を開いた。
「2人とも無理しなくていいよ。正直、お父さんも緊張してる。久しぶりの娘との食事だからな。……美味しいか?」
「うん、美味しいよ。とっても」
「ははっよかった。それが聞けて大満足だ。……今後のことは母さんとゆっくり話していくから」
その言葉に手が止まりかけそうになる。隣にいる栞那も俯いてしまった。
父はそんな私たちの心情に気づく様子もなく冷蔵庫に近づいて中を覗き込んでいる。
このままだと離婚は確定なのかな。父はお母さん次第だって言ってたけど、それでいいの? お父さんの意志はどうするのだろう。
「離婚なんてしないで」