叫べ、叫べ、大きく叫べ!
そう言ったのは栞那だった。
パタンと冷蔵庫を閉じた父はタッパーを手にしていた。あれは昨日私が茹でた枝豆だ。
席に着いた父は柔らかな表情をしていた。
「それはどうしても?」
「どうしても」
「そっか……栞那はお姉ちゃん大好きだもんな。そりゃこうなるのは嫌だよなぁ。でも母さんが俺を嫌ってる限りたぶん結果はねじ曲げることは出来ないと思うんだ。だから、」
「お父さんは? お父さんは本当に離婚したいと思ってんの?あの時の電話のお父さんはものすごく後悔しているみたいだった。お母さんのこと嫌いじゃないんでしょ? なのになんで?」
割って入ったのは私だ。
聞いているだけでムズムズしてしまって気付いた時にはそう発していた。
私たちと電話をしていた父は急に母の名前を言っていて、急に『ごめん』だとか、『悪かった』とか、懺悔してるみたいだった。少なくとも私たちに対しての言葉じゃなかった。
全ては母を苦しみから解放するために“離婚”という選択をしたのでは?
だけど、その選択は身勝手すぎたんだ。病室での母の会話を思い出した。
「お母さん言ってた。お父さんのことが分からないって。なんでも勝手に事を進めてしまうのが嫌だって。私はただ家族の時間を大切にしたかっただけなのに、急に離婚届目の前に出されて、『もう愛してもいないのか』って。仕事ばっかなのは仕方ないけれど、家に居る時間ももう少し増やして欲しかった――って。看護師さんと楽しそうに話してた」
「え、お姉ちゃん今日病院行ってきたの!?」
「うん。ちょっとね。……だからお互い様なんだよ。2人して話す時間が足りなかったんだよ。もっとちゃんと向き合って欲しい。ちゃんと考え直してみてお父さん。きっとお母さんも分かってくれるはず、だから」
「香澄……」
うわああ穴があったら入りたいッ。
私何言ってるんだろッ。なんか物凄く変なこと言ってしまったんじゃ……ってそんなに私を見ないで……本当に変なこと言っちゃった感じするから!
「ふはっ、まさか香澄にそんなこと言われる日が来るとは思わなかった! あはははっ」
そうかそうかとお腹を抱えて笑う父にもっと変な汗が出てくる。だけど、その笑う顔も声も聞いたら釣られてしまった。
ああ、なんか泣けてきちゃう。ここにお母さんもいて一緒に笑っていたらどんなに幸せか。
そんな未来があって欲しいと願うばかりだ。