叫べ、叫べ、大きく叫べ!
「俺はっ、アヤが好き!」
「……は?」
唐突に告げられた告白に宇宙が広がった、気がした。
ポカンと口が開いた私の目の前には、やけに凛々しい顔立ちが真っ直ぐこちらを見つめている。
「だから、俺をちゃんと振って」
今度は切なげに目を細めて笑顔をつくる。
つられて私まで切なくなった。
「ふっ、なんで夏澄ちゃんがそんな顔すんの。しないでよ。抱きしめたくなっちゃうじゃん」
「ばか。何言ってんの。早く文香のとこ行くよ。ちゃんと振るから」
「うっ……夏澄ちゃん切り替え早すぎ……もうちょっと寂しが───って怖い怖いその顔! はい、ちゃんと振ってください」
そんなやり取りに頬がつい緩む。
外はもうすっかり夜に近づいている。さっきまでオレンジ色に包まれていた校舎は色を無くして蛍光灯の明かりがよりハッキリ確認されている。
お互い改まって背筋を伸ばした。
サァーっと風が緑を奏でる音が合図になってしまったように、口を開く。
「都波とはこれからもずっと友達のままだけど、こんな私をずっと想ってくれてありがとう。 そして私は千木良くんが好き、なので、千木良くんしか目がないので、私のことはここでキッパリ諦めて、前に進んでください」
人の恋に終止符を打つ身としてはなんて晴れやかな心境なのだろう。
私今ものすごく身が軽くなった気がする。
「夏澄ちゃんありがとう。……はあーっこれでもう終わりかー……俺の長い初恋……」
「確認なんだけど。文香のことちゃんと好きなんだよね?」
「ちょっと夏澄ちゃん。いくらなんでも次に進みすぎじゃない?もう少し名残惜しさとかさぁ」
「ハイハイっもうその話はもう終わり! 文香たちのとこ行くよっ」
都波の背中を押しながらドアの方へ。
急がないと。文香が。
ごめんね。私のせいで辛い思いさせて。本当は我慢してたはずなんだ。
笑顔の裏には陰があるものだから。それは誰にでもあることで。私にだってあった。
大切な人の事になればなるほど。大丈夫だと自分に言い聞かせるけど、不安ばかりが募ってどんどん悪い方へ考えてしまう。
だって未来のことなんて分からないもの。
分かってたらこんな辛いことも悲しいことも回避出来る選択肢があったはず。
笑顔のまま。誰もがハッピーになれる。
ただね。
そんなセカイがあっても今の私以上に「幸せ」とは言えないと思うんだ。
暗闇の中から引っ張り出してくれた友達がいるから。
素敵な人と出会うことができたから。
辛いことも悲しいことも全てひっくるめて笑顔に繋がる出来事だったから。
きっと千木良くんが目覚めた時、私は今までにないくらい「生きていてよかった」って、「幸せだ」って思えるんじゃないかな。