叫べ、叫べ、大きく叫べ!
「ちょちょちょ、待って!」
これからの事を考えて嬉々としている私に反して、いきなり手を掴んできた都波は慌てたように文香たちが去った方向とは真逆へと歩き出す。
「えっ、ちょっと都波!?どこ行くのっ」
「文香のことは任せて!それよりもこっちの方が本命!」
ズンズンと進んでいく。
速い!足が追いつかないんだけどっ。
連れるがままに足元だけを注意して今度は階段を駆け上がる。
息がっ、苦し……っ。
こんなに階段を駆けたのはいつぶりだろう。大学生になりたてぶりだろうか。
それよりも今向かってる場所って……。
立ち止まった都波に気付かず顔面が彼の背中に激突する。鼻先が痛くて少し目が潤んだ。
「〜〜っ、」
「夏澄ちゃん」
「っ、急に立ち止まんないでよ痛いじゃん。てかなんで屋上? 文香たちここにいるって?」
でもそれならスマホに連絡きてるはずだよね。都波は何も見ずに真っ先にここに来た。ほんと今日の都波はいつも以上謎めいている。
クルっと向き直った彼は優しい眼差しで私を見た。
「ここからは夏澄ちゃんの番だよ」
そう言って頭を撫でた。
やっぱり分からない。何がしたいんだ都波は。
ここからは私の番? どういうこと? 屋上で私がすることって?
ここからの景色は最高なのは知っているけど、今はすることなんて何一つないよ。高校に連れてこられたのだって都波が発案したからで。
「とば、」
「じゃっ、またね夏澄ちゃん!」
するりと横を通り過ぎた彼を目で追う。一瞬立ち止まってこちらを振り向けば軽く手を挙げて行ってしまった。
上から階段を見下ろしても姿はもう見えなかった。わずかに駆け下りている音を耳にしながら扉へと視線を移す。
取り残されちゃったんだけど……。
一体屋上で何をするってんだ。することが無い私は今すぐにでも都波を追いかけてみんながいる所へ行くべきなんじゃないか。
そう思いながら何故か体は前へ進みたそうで手はドアノブを掴もうと手を伸ばしている。
ヒンヤリと掴んだ手に広がる握り玉が懐かしい。私は何度これを捻り開けたのだろう。なんだろう……なんか物凄くドキドキしてる。
きっと当時を思い出したからだ。掴んだ瞬間たくさんの思い出が蘇ってきちゃった。
これを開けたらもっと蘇ってきちゃうのかな。いやだな。あまり思い出したくないんだけどな。
だって開けてもあの場所に千木良くんは居ないんだから────。