叫べ、叫べ、大きく叫べ!
もう泣くことしかできなかった。
彼の胸の中で泣き続ける。背中に回される大きな温もりが今まで我慢してきた分の涙を溶かしていく。
まるで子どものようだ。
耳が彼の鼓動を聞き取るだけで一度引っ込めようとしたものが直ぐに溢れ出る。困ったもんだ。一体いつになったら収まってくれるのだろう。
こんなみっともない顔なんて見られたくないのに。
そもそもこんな形で出迎えるはずじゃなかったんだ。もっと笑顔で。
なんなら目覚めたと報告があって、駆けつけて……───ううん。そんなことはもう考えなくていいんだ。
だって、ちゃんと戻ってきてくれたんだから。
少し落ち着いてきた頃、千木良くんが私の顔をのぞきこんでそっと残った涙粒を親指で拭ってくれた。顔に掛かった髪の毛ひと房を耳にかけてくれるその優しさに胸がキュッと鳴る。
「泣きすぎ」
「全部千木良くんのせいだし」
「まぁね」
あっさり認めちゃう所が彼らしい。
目が合うとどちらからともなくコツンとおでこをくっつけた。
少しヒンヤリする彼のおでこが気持ちよくて微笑む。一方、千木良くんは私のおでこが熱いと笑った。
至近距離で見つめられれば当然心拍数が上がるわけで。それでも逸らさずにいられないのは彼のことが充分足らないからだ。
ずっと見ていたい。穴が空いてしまいそうなくらいに。瞬きまでも阻止したいくらいだ。
「夏澄」
「なに?」
「なんかアイツの匂いがする」
「アイツって? ───わっ」
抱きしめられた。
すん、と鼻で耳元を吸わわれ驚き、思いのほか強い腕力に顔をしかめる。
でも千木良くんの匂いが、爽やかなせっけんの香りが鼻腔をくすぐって思わず笑みがこぼれた。
肩に埋められていた顔が離れて凝視する千木良くんはなんだかつまらなそうに口がひん曲がっている。
どうしたのと聞く間もなくため息混じりに “アイツ” の正体を口にした。
「都波の匂いがする」
とば? ……って、あの“都波”?
「夏澄のこと諦めたって言ったくせに。ほんと油断ならないなアイツは」
腕を組み始めた彼に今度は私が口を開く。
これは聞かずにはいられない。
「都波雅のこと言ってるんだよね!? え、どういうこと…です? ────! まってエッ、千木良くん、もしかして……ずっとここに居たの?」
そう聞くとあっさり頷かれてしまった。
てことは、都波ははじめっから知ってたってこと。千木良くんの意識が戻ったのも私より先に。
───て、なんでやねん!