叫べ、叫べ、大きく叫べ!
詳しく聞けば千木良くんは私にサプライズしたかったみたい。都波は伯父さん(千木良くんの主治医)から意識が戻った事を聞かされていたようで。
意識が戻ったのは3ヶ月前の5月。
私はその頃、課題三昧でてんてこ舞いな日々を送っていた。その忙しさは都波にも伝えてあった。都波も忙しいのにマメに来るメッセージはいつも元気。
陰ながら心の支えにもなってたなぁ……っ、そうじゃなくて!
だから当然千木良くんにも筒抜けだった、というわけだ……。
「みんな私に隠れてコソコソと……」
「いや。ここに俺が来てるって知ってたのは都波ともう1人……糸口ってやつだけだよ」
「えっ、そうなの? ……まあ、糸口くんは知ってる感じしてたけど……文香は『なんでこうなっちゃうの!』って教室飛び出しちゃうし、皐月と真田くんも行っちゃうし……」
あれって実は演技だったりする? でも文香があんなに感情的に演じるなんてできたっけ……?
「あー……それは都波のせいでしょ、絶対」
「なんで分かるの?」
「そんなんアイツがさっさと夏澄を屋上に連れて来なかったからだろ」
半ばキレ気味である彼にあはは…と苦笑いを浮かべる。
確かにそうだ。『本命はこっち!』と言った都波の声が脳裏に浮かぶ。改めてちゃんとした目的があって私を連れてきたんだと分かる発言だ。
いつも以上に謎で、いつも以上にしつこかったのは多分、自分の意志との葛藤とその優柔不断さで私を引き留めようとしてたからなのかもしれない。
目の前に文香がいるのにね。
「今頃、ふたりはどうしてるかなぁ」
「全部アイツ次第だな」
「千木良くん厳しい」
2人で煌めいたセカイを見ながら不器用なふたりの恋路を思う。
自然と繋がれた手は離れまいと互いに包み合って、
ふわりと風に撫で上げられた髪束を左耳にかけて反対側も同じようにかけようとすると千木良くんの手が伸びて、右耳にそっとかけてくれた。
また胸の奥が鳴る。今度はキュンと。
まさか私がこんなに人を好きになるなんて思わなかった。しかもかれこれ一途に4年も。我ながら凄いと思う。
それもこれも人間味の無かった私にたくさんの感情を与えてくれた友達に感謝しかない。
もちろん、今現在順風満帆である家族にもだ。
「ありがとーーーーーーーー!」
気付けば叫んでいた。恥じらいなんてものは無かった。ただ心のままに。
千木良くんはそんな私を見て肩を飛び跳ねさて、そして笑った。