叫べ、叫べ、大きく叫べ!
巻きついているソレを辿っていくように徐々に視線をずらいていく。
ほんの少し手首もみられた。
だけどそこには誰もいなかった。
「……いない……」
ぽつりと呟いた声は声になっていなかった。
そして何事もなかったかのようにそろりとタオルを頭に被る。
姿がどこにも見えなかった。
手はあるのに。
手とほんの少しの手首以外の体が、そこにはまるっきり存在していなかった。
ちょっと居ないってどういうこと。
こわいよ。
さすがに怖い。だってここにいるの私一人だし。誰かに助けを求めたいけどまだ日は昇ってないから起こしちゃ悪いし、そもそも起こしに行く気力なんて無いし……。
手に汗を握りながらどうすればいいのか悶々と考えているとスっと軽くなった気がした。
恐る恐る腰に注目する。
先程まで巻きついていた手は跡形もなく消えていた。
一気に緊張の糸が切れたのか、被っていたタオルを剥ぎ取る。
そして、まだ汗ばんでいる手をそこに当ててみた。
消える前も一応確かめてみたものの、見えているだけで物体として触ることが出来なかった。その手の温度さえ分からなかった。
なのに、今は。
「……あたたかい」
『ぬるい』と言った方が正しいかもしれない。
微かに存在していたという証拠の温度はなぜか心を揺さぶった。
ひとつ目を閉じるとぼんやりしていた視界の正体に気付く。
確かにあった白い手には優しい温かみを含んでいたのだと今になって気付いて、私の欲しかった温もりだったと。
名残惜しみながら、私はまたゆっくり目を閉じ、朝を迎えていった。