叫べ、叫べ、大きく叫べ!
それでもまだ私の背中を刺激してくる彼。
後ろから上機嫌に笑う微かな声が聞こえた。
こいつ、聞こえててわざと……。
「ちょっと止めてって言ってるじゃん」
「あ、やっとこっち見てくれた」
都波はふにゃりと、とろけそうなくらいの笑顔で私を見ていて。
思わず、胸の奥が、何かに鷲掴みされたような感覚に。
「どうしたの?夏澄ちゃん」
「……別に」
この笑顔が心底嫌いだ。
なんて憎くて、なんて眩しい。
私には到底出来ない顔。
それがちょっぴり羨ましい。
「大丈夫?顔赤くない?」
「は、赤くないし」
素っ気なく言い放って、都波から背けた。
机に肘をついて、その手を頬へ当てるといつもより微かに熱をもったそれが異様に意識させる。
なにこれ。なんでこんな熱くなって……。
いや。これは夏の暑さの“熱い”だ。うん。そう。絶対そう。
なんでこんな奴に顔赤くさせないといけな――。
「今の顔、めっちゃ可愛かったよ」
「っ!」
こんな熱さ、知らない。
こんなの夏の暑さなんかじゃない。
……私、照れてるみたい……。
朝からといい、今といい、なんなの?
都波は私に何をしたいの?
私の笑顔が見たいと言った彼には残念だけど、これから先も見せることは無いよ。
あの時だけだよ。笑えたのは。
掃除を手伝ってくれた日のあのアホみたいな顔にだけは、なんか面白くて、笑えた。
でも、もう心からは笑えない。