叫べ、叫べ、大きく叫べ!

母は、あの日を境に狂ったように機嫌が良い。


ただし、栞那の前でだけ。


私にはもう興味すらないみたいで、素っ気なく、業務連絡のような会話のみが繰り返される。


もうこんな扱いには涙もでやしなくなった。
むしろ、もうそれでいいと思っている。


どうせ、私は父の方へついて行くのだから……。



「ほんと、馬鹿な家族」


ボソッと呟いて、重くなった瞼を閉じる。


部屋の外から微かに聞こえる母の笑い声。
きっとその近くには栞那もいるのだろう。
何を話しているのかは分からない。
けど、楽しそう。


フッと鼻で笑う。


あんなに声に出して笑うなんて久しぶりに聞いた。そして言葉が一つひとつ弾んでいるのも。



「ずるいよ」


私が居ないからって。
ずるいよ。愉しそうに笑ってるなんて。ずるい。


嫌いみんな大っ嫌い!

私なんて生まれてこなきゃよかった。


この世界は嫌いだらけだ。


耳元が濡れたのに気付いて、無造作に拭う。


……また会いたい。

あの黒い影に。あの白い手に。死神でもなんでもいい。私をここから連れ出して。

そして、あの心地のいい温かさで私を包んで。


そしたら、少しはこの世界を好きになれそうだから、さ……───。





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