time~元暴走族豊×キャバ嬢カナ~
「そういえば、名前を聞いてもいいかい?」
2杯目のビールを持ってきてくれたマスターは俺に笑顔を向ける。
「豊です。」
「豊君か。俺は文ちゃんって呼ばれてる。カナにだけだけど。君も文でいいよ。マスターって呼ばれるのは性に合わないんだ。」
この人の声を聞いていると眠たくなっちまう。
フワフワと流れるような声に独特の雰囲気。
今まで会ったことのないタイプだった。
「じゃあ、文さんって呼ばせてもらいます。」
「あぁ。宜しくね。豊君。」
目の前に差し出された手に、俺も右手を差し出した。
ひんやりとする文さんの手は文さんの瞳のようで、一瞬身構えてしまう。
「もうこんな時間だ。今日はもう来ないな。」
そう言って文さんは左手の時計を見ながら、俺と握手をしていた右手を離そうとしたそのとき……