time~元暴走族豊×キャバ嬢カナ~
「それで家出してきたとか言うなよ?そんな荷物持って。」
ゆっくりとグラスを持ち上げ、体内にアルコールを流し込む。
もう大丈夫。
胸のざわつきも、息苦しさも落ち着いてきた。
「そう考えてたわけではないけど……あんなこと言った手前帰れねぇわ。」
「マジかよ……。」
思い出した。
豊は高校生の時もお父さんと揉めたせいで家を飛び出し、一人暮らししていたお姉さんの家に居候してたんだった。
いつ家出したのかは聞いてないけど、結局卒業するまで、実家には帰ってなかったよな。
「行く宛てあるのか?」
こんな事を何で聞いたのか、今になってはわからない。
でも、口が勝手に開いてしまっていた。
「ないかな。ブラブラとしてるよ。外で寝泊りしたっていいし。」
「凍死するだろ?」
あたしはムキになって、テーブルに手を突いた。
豊は片方だけ口角を持ち上げ「かわんねぇな。」とあたしの頭を撫でる。
笑わないあんたがどうして今そんな表情を見せる?
そして、この手はなんだよ。
振りほどいてやりたいのに、あたしの体は動かない。
懐かしい豊の体温に、もう何もかも忘れてしまいそうだ。