time~元暴走族豊×キャバ嬢カナ~
思い切り泣いて、顔を上げたときには秀も明美もあたしの側にいた。


もちろん豊は抱きしめ続けてくれていた。



「スッキリしたか?」


豊の言葉にコクリと頷いたあたしは顔を下げる。


こんなふうに泣いてしまったことが恥ずかしい。


でも、豊の言葉に頷いたことは嘘じゃない。


3年分の何かが取れたように晴れ晴れとした気分だった。



「飲みますか?」


秀の言葉に豊はあたしから体を離し、テーブルの前へと腰を降ろした。



明美は両手に沢山持っていたビールを並べている。



また涙が出そうだし……



「ほらっ!カナも早くして。」


「あっ……。うん。」



あたしは天井を見上げ、大きく息を吸ってから、豊の隣に座った。



「乾杯!!」


秀の掛け声でぶつかり合う4つのビール缶。


この日、飲んだビールはさ、お酒を飲むようになって初めておいしいと思えたビールだった。


「こうやって4人でいるとあの頃みたい。楽しい。」


明美の笑顔はこんな笑顔だったんだよな。


はしゃいでいる明美を見ているとまた胸の辺りが締め付けられた。


きっと、あたしの前で見せていた笑顔は作り笑い。


そんなことにさえ気づいてやれなかったあたしは、明美にも静香と同じことを繰り返す所だったのかもしれない。


友達やってんのに、そんなことすらわからないなんて……


「カナ~なんて顔してんの?せっかく楽しんでのに、お酒が不味くなる。」


「あっ。悪りぃ。悪りぃ。」


豊と秀と明美。


きっと、あたしはもっと多くの人たちの楽しい時間を壊していたんだと思う。
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