time~元暴走族豊×キャバ嬢カナ~
仮に、文ちゃんが「何かあったんだろ?どうした?」と問い詰めていたら、あたしは何も言わずに店を出た。
何かあったけれど、いきなりその何かを話したくはないから。
文ちゃんはあたしの考えていることがわかるんじゃないかと思うほど、欲しい言葉をくれるし、して欲しい接し方をしてくれる。
「あっ!水でいい!」
いつものカクテルを作ろうと、手を動かした文ちゃんに声をかける。
咄嗟のことで、思わず大きな声が出てしまった。
それにカウンターに身を乗り出してまで大袈裟に言うことではなかったよな……
なんだか、自分の行動が恥ずかしくなったあたしは、文ちゃんから視線を逸らし、ゆっくりと席に着いた。
「今日は本当にいつもと違うな。」
「そうなんだよね。」
恥ずかしさのせいで、今度は声が小さくなってしまう。
「ジュースもあるぞ。」
「取り敢えず、水でいいや。」
目の前に出された水を少し口に含むと、自分の体が火照っていたことに気が付く。
いつもよりも、冷たく感じる水のお陰で、乱れていた呼吸も落ち着いてきた。
「ねぇ、文ちゃん?」
「ん?」
「産まれてきて良かったと思う?」
店内に流れていたアップテンポのBGMを、心地よい曲に変えてくれた文ちゃんの手が止まる。