time~元暴走族豊×キャバ嬢カナ~

「帰ってきたのか?」


コーヒーを半分くらい飲み終えた頃、それまで静かだった空間に親父の声が響いた。



「帰ってきてもよければ、帰ってきたい。」


意地を張らずに、一志さんの言葉を思い返しながら、俺は真っすぐに親父を見つめた。


「お前の家だ。好きにすればいい。」


一切俺の方は見ようともしない親父の横で、微笑みながら頷く母さん。


「それと……もう一度、工場で働かせてもらえないか?」


「それは、」


駄目だと言われるのは承知の上。


親父の言葉を遮るように俺は喋り続けた。


「わかってる。他の社員の手前、俺だけを優遇できないことも。親父は自分のやり方を変える気がないことも。アルバイトからでもなんでもいいんだ。もう一度チャンスが欲しい。」


俺は膝に頭を擦り付けるように、深く頭を下げた。


「頭を上げろ。」


親父の言葉は聞こえていたけれど、動こうとしない俺に、


「話ができないから、顔を上げろ。」


と少しだけ大きくなった声が頭の上からふってくる。
< 380 / 398 >

この作品をシェア

pagetop