time~元暴走族豊×キャバ嬢カナ~
空気が淀んでいるとはこういうことを言うんだろうな。



これがこの店の第一印象だった。



店の中に入った途端にガラリと空気が変わってしまう。



悪いことなんてしていないのに、この場に立っているだけで後ろめたい気持ちになっていた。



「ここは君たちのステージだ。お客様に満足してもらえるよう、最高のパフォーマンスを見せなさい」



簡単な面接を済ませた後、あたしが店長に言われた言葉。



あたしには沢山の札束を手に入れたいならば、このステージで客の喜ぶパフォーマンスをしろと聞こえた。



「源氏名は何にする?」



「スナックではカナのままでした」



「カナか……なんか華がないな」



「じゃあ何でもいいです」



「ゆめかにしよう。ここは夢を商売にしている場所だ」



夢を商売ね……



夢を見させて札束を手に入れるゆめか。



あたしにぴったりの名前だ。



華がないなんて貶されたカナっていうのがあたしの本名で、ゆめかっていうのが源氏名。



今では本名よりも源氏名のほうが気に入っている。



自分自身が生まれ変われたようで……
< 4 / 398 >

この作品をシェア

pagetop