国王陛下は無垢な姫君を甘やかに寵愛する
「長老がおりました。長老にお前たちが育てなさいと言われたのです」

エラの両親は長老を出したが、彼は嵐で亡くなっている。そしてこのふたりも長老が亡くなったことを知っている。

「その話は嘘偽りがないのだな? 万が一、嘘だったときには罰が与えられるぞ? 今ならば罪は問わない」
 
厳しい表情のジラルドが口を開いて問いただす。

「は、はい。嘘は申しておりません」

「姫は王家に伝わるペンダントをしていたが見覚えは?」
 
ジラルドは思い切って聞いてみる。

「い、いいえ……見ておりません。そのようなペンダントはまったく……」

ペンダントの事は知らないようで、ルチアが付けていたことをジョシュは話していないらしい。

「わかった。帰っていい」
 
そう言ったのはユリウスだ。

顔は苦々しく、なんの成果も得られないまま立ち上がると、エラの両親が絨毯に額をつけるくらいに頭を下げているなか、退出した。
 
そのまま中央棟にある執務室に向かう。
 
部屋の中へ入ると、窓辺へ向かい海を見つめる。

少しおいてジラルドも執務室に入ってきた。

「ジラルド、今の話をどう思う? エラの両親の態度に不審なところはあったと思うか?」
 
海を見つめていたユリウスは振り返ると、ジラルドを厳しい表情で見つめる。

「戸惑う様子もありましたが、それは国王の前では誰でもあることかと……」

「このままではルチアの祖母がペンダントを取り、今までペンダントの存在を隠していたことになる」

「仮定ですが、ペンダントだけが流れ着き祖母が持っていたのであれば、罪にはなりません。誰の持ち主なのかわからないのですから、それも仕方ないこと。ですが、ルチアさんに身につけさせ、姫は彼女だと言う。孫娘を取られたくないために、エラの両親に嘘を吐かせたのであれば重罪です」
 
大事な祖母をかくまうために、ルチアはこの先も祖母は流れ着いたペンダントをしていただけだと言うだろう。
 
ルチアが姫だと確証は得られていない。自分だけを見ないルチアがユリウスにはもどかしかった。

「なにか……ルチアが姫だとわかるものはないのか……」
 
ユリウスは眉根を寄せ考えるが、すぐにため息が漏れる。
 
すぐにわかれば苦労しないのだ。

エラとの結婚式も20日後に迫っており、ユリウスは焦っていた。


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