国王陛下は無垢な姫君を甘やかに寵愛する
第五章 思い通りにはならない
ルチアが城へ来て3日が経っていた。

まだ側頭部も左足も痛みはあるが、ベッドから出られるようになった。

ルチアはじっと寝ていることが出来ず、ベッドから抜け出す。
 
裸足にふんわりとした感触の絨毯が優しい。城の者は靴を履いているが、ルチアにとってこの柔らかさは天国にいるみたいに気持ちがいい。

ベッドもいいが、3日経っても寝心地のよさが返って慣れない。
 
ルチアは窓辺に初めて近づいて外を見る。

この部屋は高い場所にあるようで、見下ろすと美しい造形の庭があり、遠くには家屋、その向こうはルチアが見たこともない緑に覆われた森があった。
 
海を見ることが出来なかったルチアはがっかりした。 

(港から城を見たとき、たくさんの窓を見たのに……この部屋は海側じゃないんだ)
 
ずっと見下ろしていると、頭がズキズキ痛み始めベッドに戻る。横になったとき、アローラがやって来た。

「ルチアさんのお好きな生クリームがたっぷりのったケーキをお持ちしましたよ」
 
アローラはトレーにタルトと紅茶セットを用意している。

ルチアの好きなものが牛乳だと知ったのは昨日のことだ。

夕食をほとんど残してしまい、困ったアローラが生クリームのタルトをもって来た。

ルチアは美味しいと言って、残さず食べた。なにも口にしないよりはいいと、今日ももって来たのだ。

「ユリウスさまがおいでになるそうですよ」
 
アローラは美しい模様の入ったテーブルの上にお茶のセットを置いた。
 
ユリウスが来ると聞いて、頭痛に悩まされていたルチアだが顔を輝かせる。

ベッドから出ようとすると、アローラが空色のガウンを羽織らせてくれる。
 
ルチアが着ている夜着やドレスはすべてユリウスが取り寄せて選んだものだ。

エラのときとは違う様子にアローラも内心困惑していた。

ルチアが姫かもしれないことはユリウスとジラルドだけが知っており、信頼を置いているアローラにさえまだ話をしていない。


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