国王陛下は無垢な姫君を甘やかに寵愛する
「陛下は我が国の独身女性や他国の姫君にとてもモテます。ですが、息子から聞く限りでは陛下はルチアさんにご執心だと」

「ジラルドさまが……」

「わたくし、お小さい頃のエレオノーラ姫に何度もお会いしたことがあります。本当に愛らしい天使のような姫君でした。陛下とエレオノーラ姫は許嫁同士でしたから、大きくなって相思相愛であれば素晴らしいことですわ」
 
モーフィアス夫人の言葉に、ルチアは困惑した表情になる。

「わたしが姫だと確信したものはないので……」
 
そこでアローラがダンスの先生が来たことを告げに現れ、モーフィアス夫人は夜会でお会いしましょうと言って部屋を出て行った。
 
ダンスの先生は祖父といってもいいくらいの男性だった。ユリウスが若い男を選ぶなと指示したようだ。
 
ダンスはなかなか難しく、何度も先生の足を踏んでしまう。それでも終わる頃にはなんとか先生の足を踏まなくても済むように踊れるようになった。
 
2時間ほどレッスンしたあと、ダンスの先生は帰っていった。
 
今日は朝から知識を詰め込み、2時間の慣れないダンスをして、ルチアは疲れを感じていた。

そこへ美しい水色のドレスをアローラと侍女が運んできた。

「ルチアさん、見てください! とても美しいドレスですわ!」
 
アローラが誇らしげにルチアに見せるのは、レースが幾重にも重なった職人の手がかかっているドレスだった。
 
そして驚くことに、美しいサファイアのネックレスがある。嵐の日に祖母から付けられたネックレスではないが、これも大きな宝石で素晴らしい細工が凝らしてあった。

「こんな高価なもの、付けられないわ」

「そんなことを言われましても……陛下からお付けになるように言われております」
 
アローラはにっこり笑って、ゴージャスなネックレスをうっとり見る。

「この水色のドレスにピッタリですわ。それに夜会に出席なさっているご令嬢は必ずこういった美しい宝飾品を身につけておられます。むしろ何もないと、主催した陛下に失礼に当たります」
 
そういうものなのかと、ルチアは仕方なく頷く。

「ダンスの後で喉が渇いたでしょう。お茶で一休みしてから、お風呂に入りお支度をしましょう」
 
ドレスを持っていた侍女はベッドの上に丁寧に置くと、お茶を用意するために部屋を出て行った。


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