国王陛下は無垢な姫君を甘やかに寵愛する
アローラに付き添われて夜会が行われる大広間に足を踏み入れた途端、ルチアは人の多さに眩暈を覚えた。

「こんなに人がいるなんて……」
 
城の生活でたくさんの人に慣れてはきたが、がやがやと雑談するドレスアップをした紳士淑女に圧倒されるばかりだ。

「すぐに陛下がいらっしゃると思います。もう少し、中ほどへ参りましょう」
 
今ルチアが立っているのは中央口のそばだ。まだ招待客はあとを切らない。

ルチアが中央口を離れたとき、ジラルドのエスコートでエラが姿を現した。ローズピンク色のドレスを着たエラに会場が先ほどより騒がしくなる。
 
婚約は延期したものの、その理由が明らかにされておらず、エラはまだ国王の婚約者の位置づけのようだ。
 
招待客に注目され、エラは口元に笑みを浮かべてジラルドとともに、大広間の中ほどへ進んでいく。

(島にいた頃のエラと別人のよう……)
 
好きだったジョシュにも話しかけられない大人しい女の子だった。
 
そのとき、ざわついていた会場が一気に静かになった。聞こえるのは楽器を奏でる楽団のゆったりとした曲だけ。

「陛下ですわ」
 
ルチアのところからではユリウスの姿は見えないが、この雰囲気を何度も知っているアローラは彼女に耳打ちする。
 
ユリウスが堂々たる口調で招待客に歓迎の言葉を述べると、楽団の曲が大きくなり、ダンスフロアのスペースが紳士淑女で埋められていく。

女性客は色とりどりのドレスでダンスフロアは花が咲いたようだ。

「まあ、さっそく陛下は女性たちに囲まれていますわ。ルチアさん、陛下のおそばへ参りましょう」
 
アローラがユリウスの元へルチアを連れて行こうとしたそのとき――。

「驚いたな。島にいた娘とは別人のようじゃないか」
 
聞き覚えのある太い声に、ルチアは振り返る。後ろに大柄で正装した男がいた。

「バレージ子爵!」

「国王の妾にわざわざなりにきたのか?」

「そういうわけではないです」
 
ルチアは小さく首を横に振る。


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